2.1マレーシアの野鳥
以下は各種類ごとに記載する。個人的な観察記録の域を出ないため、記述には特に形式を使うことはなく、印象に残ったことのみを書くに留めた。中には観察記録数の少ない種もあり、当該種にとってあまり普通ではない行動を記している可能性もありうることを付記しておく。
アオサギ(Grey Heron)
マレーシアではクアラ・セランゴール以外で見かけなかった。淡水の湖沼に本種の好むような浅く、かつ開けた水面があるところがほとんどないのだろうか。
ムラサキサギ(Purple Heron)
前種よりも圧倒的に目にする機会が多かった。スゲ等のよく茂った湿地で見られたが、時々KL市内を飛んでいることもあり、適当な環境さえあればどこでも生息しているようだった。
ササゴイ(Little Heron)
サギの仲間では恐らく一番普通種だろう。マングローブ林内、干潟、海岸、湿地等で見られた。あまり広い水面に出ることはなく、たいていは湖岸、河岸で採餌する。
タカサゴクロサギ(Black Bittern)
Taman Pertanianで1回目にしただけ。やはりこの国でも見づらい鳥のようだ。オーストラリアで観察した環境と似ており、どうやら植生のよく茂った池や川の流れの緩いところで見られるようだ。
リュウキュウヨシゴイ(Cinnamon Bittern)
ヨシゴイ3種の中では一番多く、スゲの茂った環境に行くと、たいてい見られる。密度は高く、日中でも頻繁に飛び回る。
インドトキコウ(Painted Stork)
KL市内の動物園で放し飼い?状態にあるという数羽がKL市内南部を飛び交っており、朝夕には群れで飛ぶ姿も見られるという。
コハゲコウ(Lesser Adjutant)
マングローブ湿地や干潟、内陸の湿地等で少なからず記録はあるが、個体数はかなり減っていると言われている。クアラセランゴールでは時々見られているが、この他、クアラグラ(Kuala
Gula)やジョホール州の海岸沿いでも見られている。内陸ではベラ湖(Tasek
Bera)で記録がある。他の水鳥と比較してずば抜けて大きく、誤認することはない。
リュウキュウガモ(Lesser Treeduck)
本来は群棲の強い鳥と思われるが、マレーシアではあまり数は多くないらしい。錫鉱跡の池で時々見られる。この仲間は口笛状の声で頻繁に鳴くことからwhistling-duckとも呼ばれる。
カタグロトビ(Black-shouldered Kite)
開けた環境を好む。水田地帯やヤシ園の伐採跡で比較的普通に見られる。同じグループのオーストラリアカタグロトビの主食はネズミや昆虫であることから、同様の嗜好を持っていると推測する。クアラセランゴールへ向かう道路沿いにはいつも1羽以上がどこかで見られる。セキンチャン(Sekingchan)の水田地帯周辺には多く見られる。
シロガシラトビ(Brahminy Kite)
日本のトビとよく似た環境で見られるが、海岸にやや依存している。マングローブ林のある海岸沿いに多く見られ、クアラセランゴールではまとまった数が見られる。トビと異なり、尾は丸い。
シロハラウミワシ(White-bellied Sea-eagle)
海岸沿いで主に見られる。クアラセランゴールでは数回目にした。ウナギなのか、細長い魚を食べているのを1度目撃したことがある。
カンムリワシ(Crested Serpent Eagle)
たぶん、マレーシアの猛禽でもっとも普通の種が本種だろう。海岸のクアラセランゴールのマングローブ林から、フレーザーズ・ヒルの丘の上まで幅広い環境で目にした。これは本種がよく通る声で鳴くことも一因しているが、個体数がかなり多いのだろう。
カワリクマタカ (Changable Hawk-eagle)
低地の森林で見られるクマタカの仲間。ハチクマのように羽色が様々で、白っぽいものから、ほとんど全身黒の個体まで見られる。翼下面のパターンが独特で識別しやすい。
カオグロクマタカ(Blyth's Hawk-Eagle)
前種よりは山地性。フレーザーズ・ヒルで数回目にした。フレーザーズ・ヒルへ向かう途中の道沿いに大きな巣をかけていたが、あまりにも人目につきやすい場所で驚いたことがある。成鳥は下面が白黒のはっきりとした鷹斑であり、他種と見間違うことはない。
ウォーレスクマタカ (Wallace's Hawk-eagle)
前2種と比較し、明らかに小さい。数は少ないらしく、記録もあまり聞かない。フレーザーズ・ヒルの山麓で1回だけ記録した。
チュウヒ (Eastern Marsh Harrier)
セキンチャンの水田地帯でオスの綺麗な個体を1度目にしたことがある。当然ながら大陸型であり、日本のものとは印象がかなり違った。マレーシアでは少なからずマダラチュウヒが同一環境に渡来する。
カザノワシ (Black Eagle)
山地性のワシで、同一環境に類似種がないことから識別は容易。羽の幅が広く、独特の体型をしている。フレーザーズ・ヒルで2回観察した。低標高には生息せず、山地の尾根沿いで見られることが多いことから、日本のイヌワシに近い生態的地位を得ていると推測される。
モモグロヒメハヤブサ (Black-thighed Falconet)
アジアでは最小型の猛禽に入ると思われる。小型であるために見逃すことが多いが、マラヤ大学の構内、ゴンバック渓谷(Gombak
Valley), ゲンティン高原 (Genting Highland)と実はかなり様々な環境に分布しているようだ。大抵は見晴らしの良い枝先に止まり、餌となる昆虫(トンボなど)が通りかかるのを待っている。体は小さいが、猛禽の嘴や脚はちゃんと持っており、小鳥などを襲うこともあるという。神出鬼没で、特定の場所で複数以上の観察記録はないが、1ヵ所に止まってじっとしていることが多いことから、縄張りに固執するものと思われる。首が短く、翼もさほど長くないため、飛翔時の体型は一見するとムクドリのようであった。
コウモリダカ (Bat Hawk)
ほぼ純夜行性のタカでコウモリを主食にしていると言われている。体型はタカというよりはハヤブサであり、鋭い声で鳴きながら飛翔するので、知っていればすぐにそれと分かる。外見はほぼ全身黒で、喉のみ白い。従って、日中であれば他種と混同することはないが、光線状態が悪かったり、太陽光のない状況ではハヤブサとの混同もありうる。パーディク川
(Sungai Perdik)には通年生息しているペアがおり、毎年のように繁殖している。巣は樹高30‐40mの木にかけており、メスと思われる個体が抱卵を行っていた。
コシアカキジ(Crested Fireback)
中型のキジで、尾は日本のキジの仲間とは異なり、鎌状に垂れ下がっている。むしろ、大型のニワトリといった印象か。オスは青い顔の裸出部と赤い腰が印象的。タマンネガラ(Taman
Negara)では見やすいという印象を受けた。
ホウロクシギ/ダイシャクシギ (Eurasian Curlew/Eastern
Curlew)
ダイシャクシギはマレーシアでは比較的普通に見られる。生息環境は日本と変わらない。ホウロクシギも同様の環境に見られるが、数はダイシャクシギよりもずっと少ない。どうやら渡りのコースから外れているらしく、季節に数羽単位でしか出現しないという。
オオソリハシシギ (Bar-tailed Godwit)
普通種。生息環境はやはり日本と変わらない。
アカアシシギ (Common Redshank)
このグループではもっとも普通の種のひとつ。マレーシアではどうやら4亜種(Tringa
totanus eurhinus, craggi, terrignotae, ussuriensis)が分布しているらしく、生殖羽が見られる春の渡りの時期には亜種の違いが顕著である。日本では見られないような大きな群れが見られ、生息環境も干潟で見られた。
カラフトアオアシシギ (Nordman's Greenshank)
クラン(Klang)近郊の発電所内で3羽を同時に見たのみ。数はすくないものの、ほぼ毎年見られているようだ。
アオアシシギ (Common Greenshank)
普通種。生息環境は前種やアカアシシギ同様、干潟等。クアラセランゴールで6月下旬に3羽を見かけたが、本種に限らず、少なからず越夏するシギがいるらしい。
トウネン (Red-necked Stint)
普通種。干潟で普通に見られる。
ヨーロッパトウネン (Little Stint)
やはりマレーシアでも珍しいらしい。4月に1回確認したのみ。ただ、地理的な要因からするに、日本よりもむしろ渡来例はあって良いと思われるが、地元バードウォッチャーの識別能力が問題であろう。
サルハマシギ (Curlew Sandpiper)
普通種。アカアシシギ同様、マレーシアの海岸、干潟の最優占種であろう。大きな群れを形成する。
キリアイ (Broad-billed Sandpiper)
少なからず干潟で見られるが、大きな群れは作らない。
コオバシギ (Red Knot)
普通種。オバシギはコオバシギの群れに混ざるが、マレーシアではさほど多くないようで、本種の方がより多い。
ハジロクロハラアジサシ (White-winged Tern)
冬鳥として普通に見られる。海岸でも見られるが、セキンチャンの水田地帯で多く群れているのには驚いた。水田の鋤き返しの際に出る小動物や昆虫を漁っていたらしい。