オーストラリア東部探鳥記


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ラベンダー畑のモモイロインコ (Galah)
© 2007 Koji TAGI

この探鳥旅行記は、1999年9月2-13日にオーストラリア東部を回った時のものです。


 オーストラリアを離れて今月で丸三年になる。かねがね再訪問を切望していて、あちらの友人たちに「今年こそ行くから」と言い続けてきたが、先立つものがないというのは大きく、先延ばししているうちに3年も経ってしまった。それでもあちらでの生活の記憶は色褪せるどころかますます熟成されてきて、3年が経っていてもまるで昨日のように新鮮に思い出されることすらあった。
 昨年愛知県の研究機関に就職したIさんが「わりと休みが取れるのでどこか行きませんか」と言ってきたのが今年の初めだったろうか。気がついたら、「オーストラリアにしましょう」と応えていた。

 オーストラリアに行くなら春にしたい。時期は9月か10月。特にたいした理由もないが心の中でそう決めていた。実は2年半にまたがって生活していたのに、春は1回しか体験していない。それでもオーストラリアの春は印象的だった。I氏の夏休みの取れる時期に合わせ、9月5日から11日にかけて探鳥旅行に出かけることに決める。
 カレンダーを見ると週末に跨っている。どうせならと、3日イン、13日アウトで前後に少し余裕を持たせ、あちらで友人たちに会うように段取りを取る。ほどなく、数名の友人、知人と連絡が着いた。
 後はチケットだ。フライトは2,000RM(約6万円)までなら良しとしようと決めていたが、シンガポール航空で1,200RMで手に入った。

 9月2日(木曜日) 仕事を慌しく片付け、KLIA(クアラルンプール国際空港)へとタクシーを走らせた。明日の朝はBrisbaneだ。
 Singaporeで飛行機を乗り継ぐ。あいにく満席らしい。SQ0235はルフトハンザ、アンセットとの共同運航便だ。座席はOZたちで埋まった。日本からのJALやQuantasとはエライちがいだ。隣の夫婦連れは5週間(!)の休みをイタリア、ギリシャで過ごし、Gold Coastの自宅へ帰るところだとか。
 出発の挨拶に出た機長が陽気な口調で話している。機内の雰囲気とマッチして、オーストラリアへ行くんだなという実感が湧く。

 9月3日(金曜日) 午前6時半、Brisbane International Airport到着。しばらく来ないうちに入国審査の手続きが変わったらしい。いつもよりも時間がかかって7時半にようやく入国。入国の時、審査官が「内容全部理解してるんだろな」というようなことを聞く。馬鹿にするんじゃない、これでも2年半も住んでたんだと思ったと同時に、すっかりビジターになってしまったんだなと実感し少し寂しくなる。
 空港から町まではシャトルバスで移動。外に出ると空が青い。オーストラリアらしい青空と赤いレンガの街並みが懐旧の念を呼び起こす。
 ブリスベン川にかかる橋が見え、SUNCOAPのビルが見えてきたら、Brisbane市内だ。transit centreでバスを降り、McCaferty'sのカウンターで次のToowoomba行きの時間を尋ねる。ちょうど8時半すぎバスが出るというので、チケットを買い、重い荷物をロッカーに突っ込み、バスに飛び乗る。バスはBrisbane川を渡り、IpswichからWarrego Highwayへ入る。芽吹いたばかりなのだろうか、牧草の新緑がまぶしい。道沿いのcreekやmarshは空の色を反射して青い。例年よりも雨が多かったようだ。
 Lawes着10時15分。久し振りに母校を来訪。
 長めのチェックのYシャツを着た如何にもOZな女の子をHoldenのRodeoのトラックに乗ったこれまたOZな男の子が迎えに来ていた。バス停から校舎へと伸びるまっすぐな道のはるか向こうからNoisy MinerやAustralian Magpieの懐かしい声が聞こえてくる。うーん、全然変わってへんなぁ…。変わったことと言えば、バス停に屋根がついたことくらいか。
 校内ではユーカリの花が早くも咲き始めており、lorikeetたちが賑やかに鳴きかわしながら木々の間を飛び交っている。
 
 図書館の前で学部の後輩にあたるI君とFさんに会う。I君はまだ寒い季節のはずなのにTシャツ、Fさんは色がすっかり薄く褪せてしまったTシャツにカーディガンを着ている。2人とも見事にこちらの生活にはまっているらしい。
 こちらの学生は驚くほど服装に無頓着だ。Tシャツの肩や袖の部分が破れていようが、Gパンに穴が開いていようが、全く気にする様子がない。靴は色褪せて元は何色だったのかすら検討のつかない靴を履いている。女の子でも短パンやジャージでウロウロしている。かく言う自分も3年前まではそんな生活を送っていたが。
 彼らの話によると、依然就職は容易な問題ではないらしい。野生生物管理学は日本ではまだ確立されていない学問で、仕事口を見つけるのはたやすいことではない。行政レベルでは造園や林学、農学を専攻した学生を雇用している。一方NGOでは運営そのものに苦労していて新規雇用を毎年行っているような組織はないと言って良いくらいだ。
 かと言って、オーストラリアでは雇用先はほとんどが行政に限られているため、市民権のない留学生が仕事を見つけるのはまず不可能である。健闘を祈るくらいのことしか言ってやれない。いずれ必要とされる学問だから、焦らずにやって欲しい。

 久し振りに懐かしい面々に会う。留学生カウンセラーのVijendraは僕がA$8,000で譲った車をA$5,000で売ったらしい。僕が買った時、既に130,000キロ走っていた。2年弱で40,000キロ乗って、170,000キロで売った。あれから3年、いったいあの車はどのくらい走ったのだろう。
 その昔、僕のsupervisorだったBobの車に乗せてもらったとき、友人Yiheyisは、「この車、60,000キロしか乗っていないぞ、良い車だな」と言った。型が古いこととメーターが万の単位までしかついていないことに気づいた僕は「まぁ、Bobに聞いてみたら…」と軽くいなした。ガソリン代を払って戻ってきたBobは、「ん?この車?260,000キロ走ったかな」。Yiheyisは何もそれ以上聞かなかった。
 この国では車は本当に高い。国が大きいので皆長距離乗る。従って、70,000キロ走っている中古でも"Low Kilometre!"として売られる。新車が高いからみんな車を買い換えない。中古がよく売れるので、中古の値段が下がらない。だからいつまでたっても車が高い。

 もう一人、僕が留学していた時代から居たYiheyisに会った。彼には子供が出来たらしい。以前、エチオピアの初めての選挙について誇らしげに語っていた彼だったが、久し振りに会って話を聞くと、博士過程修了後の予定は未定だとか。I君が「なんだか、国が内戦だとかって言っていたような」。選挙は失敗に終わったのだろうか。それ以上は深く聞くのをやめた。でも、国に帰りたくないのかな。
 
 Gattonの町からバスに乗る前、Jenny & Ian宅に電話を入れる。Ianが出て、Roma Streetでピックアップしてもらうよう頼む。車は青いレオーネ・ツーリングワゴンに変わっていた。Jennyが"my toy"と言っていた死にかけのHoldenワゴンは廃車にしたようだ。
 彼は3年前に会ったときはジョン・ローンみたいななかなかの色男だったが、お腹が出て額が後退し、頬骨も目立って、すっかりオッサン化しつつある。まだ30台前半で自分とさほど年も違わないはずだろうに。本当に白人って高山植物みたいだ。
 彼らの家は典型的なQLDの家で、ベージュ色パネルが横に貼られた小さな家だった。「年寄りばっかり住んでいるけど、良い町だよ」とIan。ちょっと太ったろうか、sheep dogのFrankがお出迎えだ。Jennyは風邪を引いて寝込んでいるらしい。馬鹿は風邪を引かないというが、奇人Jennyは風邪を引くようだ。IanがIanだけに25になった彼女がどう変わったのか興味があったが、髪を長く伸ばして少し大人びた印象になったくらいで、全く変わっていなかったのには驚いた。白人女性(特に髪がブロンドの女性)の場合、20歳を過ぎると後は老け出し、25くらいには顔に立派な皺を刻み込んだ人をよく見かけるからだ。
 Jennyは現在Environment Protection Agency(旧名Department of Environment and Heritage Queensland)に勤めている。Queensland州政府の環境庁だ。Liberal Partyの政策が気に入らないと、Communistの活動に少しだけ加わったこともある激しい性格は相変わらずらしく、環境問題の予算を削るLiberal Party政権を批判していた。Brisbane近郊のBribie Islandでは運河建設の問題があるらしく、何もしようとしないEPAに苛立ちを感じているようで、「Eddie HegelたちNGO連中を動かしてみたら」とコメントした。頭はきれるけど、曲がったことの嫌いな性格の彼女をよくもEPAが雇ったもんだと思う。
 QOSI(Queensland Ornithological Society Inc.)メンバー時代の友人Royと電話で連絡を取り、翌日は彼と共に探鳥へ。屋外へ出るのが好きなIanと好奇心のカタマリJennyを誘う。

 9月4日(土曜日)。寒さで目が覚める。やっぱり朝はまだ寒い。Ianと紅茶を飲みつつ、ドアを開ける。外はまぶしいばかりの快晴だ。風邪気味の上、朝に弱いJennyが起きてくると、Ianは彼女のためにパンを焼き、マーマレードを塗り、紅茶を入れてやっていた。OZ husbandって言葉があるが、まぁ、たいしたもんだ。
 7時半に車を出し、Royの家へ。「ゴメン、車を掃除していないんだ」とIanが言った通り、荷台のスペースでQueensland名物XXXX(フォーエックス)のビール瓶とペットボトルが転がっている。カーブを曲がる度にゴロゴロ、ガチャンと誠に賑やかだ。
 カーブではふんばりがきかないのか、犬のFrankがこっちに転がってきた。おまえ、重いんだよな…。

 Royの家はまだ真新しく、部屋の中もまだ工事中だった。いつものことながら、こちらの人が自分で家を造るのには驚かされる。しっかし、エライでかいシステムキッチンだねぇ…。彼の息子のGreg(だったっけ)は日本でワーキングホリデーをしていたらしい。名古屋と高知にいて、名古屋ではNOVAだかの語学学校で英語を教え、高知では新聞配達をしていたとか。見るからにOZの彼が高知で新聞配達とは…。
 Frankにスペースを取られたので、Royの四駆に乗せてもらう。Royは四駆であることを良いことに、小川を渡り、溝の掘れた荒れた道を登っていく。後ろからついてくるIan &Jennyの車が気がかりだったが、Royは「大丈夫だよ、あれはこっちのbirdwatcherの間で最もポピュラーな車だよ」。まぁ、そうかもしれんけどね…。
 RoyはSamfordからLake Samsonvaleを通り、Mt. Meeへ行くという。途中でPheasant CoucalやBlack-necked Storkを見る。Rainbow Bee-eaterやRed-backed Fairy-wrenにはIanたちも喜んでいた。Frankは川で遊んだので、泥だらけになった。「やっぱり、おまえ、今日洗わないとな」とIan。

 午後はMt. MeeからBribie Islandへ。お互いにコスタリカに出かけた仲なので、なぜかコスタリカのことに話題は集中。Royは他の旧友たちの話も色々聞かせてくれた。よく一緒に出かけたJeremyは今や二児の父となったそうだ。
 
 夕方、Frankの散歩にJenny、Ianと共にBrisbane河畔へ。風はひんやりと冷たいが、心地良い。対岸はUQの本校が見える。夕陽に染まってレンガ造りの建物がさらに赤くなる。
 夜は外食しようと言っていたJennyだったが、結局酒と食べ物を買い込んでビデオを見るということで落ち着いた。Ianと共に酒を買い込み、ビデオ屋へ。「これがなかなか難しくてねぇ。Jennyはviolenceものは全くダメなんだよね」。なんでもJacky Chenすらダメらしい。いったいどんな映画を見てるのやら。

 9月5日(日曜日) Brisbane - Mt. Cooth-tha - Forest Hill - Gatton - Lockyer Waters - Helidon - Beudesert - Canungula - Mt. O'Reilly's (Lamington N.P.)

 8時にIanに空港に送ってもらう。前夜結局11時半まで映画2本を見ていたので、まだ寝不足気味だ。
 今回の探鳥旅行の同行者I君を迎えに空港に出向いたのだが、うっかりしていてフライトナンバーを確認してこなかった。Cairnsで乗り継ぎということだったので、てっきりdomesticと思っていたら、なんとinternationalの方だったらしい。レンタカーを先に借りて、慌ててinternationalのterminalへ。午前8時20分、相変わらず日本人観光客でごった返すterminalで無事に合流。あちらはあちらで便が遅れたらしく、気を揉んでいたらしい。
 オーストラリアでの久し振りのdrivingは楽しい。Brisbane市内へ出る道で曲がり損ね、Brisbane Forestへの道を見失ったので、Gatton近郊のポイントをいくつか回ることに決める。UQGCでRed-rumped ParrotSuperb Fairy-wrenを見る。「いやぁ、こっちの鳥は鮮やかですねぇ」とIさん。

 昼は手軽にマクドナルドへ。OZサイズを知らないのか、Iさんがヴァリューミールを二つも頼もうとしている。ちょっと待て!この人なにをしようとしとんじゃ?「とりあえず、一つにしたらどうですか」と口を挟み、先に席に着く。後から来た彼は、「うーん、一つにしておいて良かった」。そうでっしゃろ。
 午後はLake Apex, Helidonで探鳥。HelidonでVarigated Fairy-wrenのオスが姿を見せてくれた。「青いですねぇ、綺麗だ」とはI氏。林道ではbutcherbirdやNoisy Minerたちがやけに騒がしい。butcherbirdがモビングする先に眼をやると、1.5mくらいある比較的大型のオオトカゲがいた。空からの来襲を鬱陶しく思ったのか、オオトカゲはゆっくりと藪の中へ姿を消した。
 午後3時、ひたすら車を飛ばして今日の宿泊先のO'Reilly'sへ向かう。なんとか日没までに着きたい。傾いた太陽が大地を黄色から赤へと変える。険しい斜面を登りきって、すっかり暗闇と化したLamingtonの森へと滑り込む。森ではwhipbirdやscrubwrenが一日の最後、ねぐらに入る前に声を上げていた。

 9月6日(月曜日) Mt. O'Reilly's - Beaudesert - Brisbane - Sydney - Parramata - Penrith - Katoomba - Blackheath - Lithgow

寒さで目が覚める。ひんやりとした空気が心地良い。ドアを開けるとRed-necked Padimelon(アカクビヤブワラビー)やbrush-turkeyが庭で餌探ししている。林縁ではSatin BowerbirdやRegent Bowerbirdが賑やかな声を上げている。
 森に入るとあちこちから朝の囀りが聞こえる。とりわけNoisy Pittaの声が目立つ。日本のヤイロチョウに似ているが、顔が黒い。声が大きく、"walk to work"と聞きなされている。
すぐに苔むした林床の倒木で囀る一羽の鳥を見つける。その後、数回Noisy Pittaにはお目にかかれた。
 ゲストハウスで朝食を取る。ゲストハウスの窓からbowerbirdやcatbirdが餌付けされているのが間近で見られる。
 相席になった人と話がはずむ。彼は一週間の予定で来ているそうだ。この国の良いところはこちらにその気がなければともかく、かなり色んな人と会話を楽しむことが出来るところだ。

 朝食後、再び森へ。森の中からはscrubwrenやwhipbirdの声が聞こえる。scrubwrenたちは飛ぶでもなく、我々の前を誘導するかのごとく歩いていく。whipbirdの声を東海岸の森で聞かないことはまずない。オスは口笛のような音色で「フォーィ」と鳴き、メスがそれに応えて「チューチュー」と返す。オスの声が鞭を打つときの音に似ている(らしい)から、whipbirdと名づけられた。遊歩道脇の藪では、Logrunnerたちがガサゴソやっている。小さな体からは想像もつかないような大きな音で地面をそこら中ほじくり返している。
この鳥は警戒心がほとんどなく、人の足元でもガサゴソやるし、メスの方が綺麗だしで変な鳥度がかなり高い。Eastern Yellow Robinが森から出てきて、近くの木の幹に止まった。ほとんど鳴くことのない鳥だが、蛍光色に近い黄色の腰、腹と案外林縁に出てくることで見つけやすい。時折苔むした森の奥からRose Robinの特徴あるのんびりとした声が聞こえてくる。森の緑の中で薔薇色のオスを見つけることは出来なかったが。

 午後のフライトでSydneyへ向かうため、Guest Houseへ早足で戻る。すっかり森の中で長居をしてしまった。土産物屋を覗こうとGuest Houseの前を通りかかると、Crimson Rosella, King Parrotたちに混ざって沢山のRegent BowerbirdやSatin Bowerbirdが集まっていた。朝食後に立ち寄ったときには全く居らず、餌付け用に買った餌が残ったのに、先に行っていたAI氏の手には山ほどあった干しブドウがもうなくなっていた。Regent Bowerbirdの黄色は少し濃いめで、むしろ金色という印象すらある。この黄色と黒のコントラストの鳥が舞う様はいつ見ても素晴らしい。

 Lamingtonを11時に後にし、空港へ向かう。1時間余りのフライトの間、しばしの睡眠をと思っていたら、前の席の子供のにらめっこの相手をする破目になり(やらなきゃいいんだけどねぇ)、結局眠れずじまい。そうこうするうちにHarbour Bridgeが見えてきた。

 Sydneyからはパルサーを借りた。青とはなんとも派手だなぁ…。AVISのカウンターでWestern Freewayへの道順を聞き、街へ。のんびりカセットでも聞こうかと思ったら、なんやこれ、CDプレーヤーつきでカセットがあれへん。変なところに気を配ったあるやン。で、しょうがないので、ラジオのスイッチを入れる。Triple Jからは懐かしいBlind Melonの"No Rain"が聞こえてくる。そう言えば、5年前、初めてオーストラリアに入った頃に流行った曲だったっけ。昨日はBeudesertのサンドイッチ屋でJoan Osborneの"One of Us"(3年半前のヒット曲)なんてかかってたし、どういう選曲してるんだろ。でも、懐かしくて良いなぁ。
 オーストラリアの車のナンバープレートはQueenslandが白地に緑、New South Walesが黄色に黒(最近は違ったパターンもある)、VictoriaとACTが白地に青と決まっている。これを見ていたI氏が、「カワウの足環の色と同じですねぇ」。…どういう思考回路してるんやろ。(I氏はカワウの研究者なので、必然的結果かもしれないが)
 University of Sydneyの前の道をただひたすら西へ。高速のゲート手前からは大渋滞。オーストラリアらしくない。どうやらSydneyの通勤ラッシュとかち合ったらしい。まぶしかった西日もすっかり傾いた。Penrithの出口を過ぎてようやく車が流れ出す。Blue Mountainsのアプローチに入った頃、日は暮れて車のライトのみが近づいては遠くなっていく。山の登りに入る頃には星空の明かりが目に飛び込んでくるようになった。Katoomba, Blackheathと高原の町を過ぎる。MotelのVacantのサインが誘っているようだ。
 Blackheathからの急な下りを降りきり、さらに20キロほど走ったところで谷間に細く長く連なる明かりを見つける。Lithgowだ。すっかり常宿と化したLithgow Valley Motelを訪れたら、隣に鉄板焼き屋が出来ていた。戸惑いつつ鍵を受け取るべくレセプションに入ると、オーナーが変わっていた。前に来たときは中学生くらいの女の子が鍵を渡してくれたが、中国人の中年男性が座っていた。やはり3年経ったんだ。

 オーストラリアを移動するとき、モーテルを選択肢に入れると良い。特に車での移動時、広い駐車場があり、部屋の前に車を止められるモーテルは旅を快適にする。部屋は大抵ツインになっており、二人で泊まると一人頭25ドル程度で済む。I氏はモーテルの部屋に入って、広さに驚いていた。bag packerやyouthに泊まるメリットは知らない人と旅先で知り会えることだが、デメリットは相部屋やその日の宿泊のメンバー次第ではゆっくり寝ていられないことだ。モーテルは睡眠をきっちり取りたい向きにはぴったりと思う。

 9月7日(火曜日) Lithgow - Capertee - Glen Davis - Capertee - Bathurst - Cowra - Glenfell - West Wyalong - Lake Cargelligo



Capertee Valleyの景色

Lithgowの朝はいつもながら寒い。盆地の上、標高が500m以上あるため、冷え込みがきつい。シャワーを浴びて冷え切った体を温める。雲が多く、小雨さえ降り始めたが、気にせず北へ。Portlandの火力発電所を過ぎ、ユーカリの林が広がってきた。
 上空を大きな黒い鳥がゆっくりと横切る。Yellow-tailed Black-Cockatooだ。60センチを超えるオーストラリア最大級のオウムである。ゆっくりとした羽ばたきで飛び去る。I氏はデカイもの好きらしく、かなり気に入った様子。
 Caperteeから谷に入る。谷はアカシアの黄色い花で鮮やかだ。侵食と風化作用により、Caperteeの谷は独特の景観を見せる。朝陽を浴びて黄色や赤く染まった岩や森は個々違った表情を見せる。
 ユーカリの林が開け、谷間に下りてきたところで車を止める。「ピピピピ-ピーピー」と尻上がりに大きくなる声が聞こえてくる。Pallid Cuckoo(写真右)らしい。もう帰ってきているのか。牧柵に目をやるとHooded Robinのメスが止まっている。しばらく見ていると杭の上にしゃがみ出した。巣があるらしい。しかしまぁ…、なんとも目立つところに。杭の上に小枝を集めて巣を作っているじゃないか。これでは雛が孵っても天敵に丸見えだろうに。
 ユーカリの開けた林の上をLittle Lorikeetが素早く飛び去る。雄大な景色をバックに白いSulphur-crested Cockatooが悠然と飛んでいく。全てがゆったりとしている。

 面積が広いため、丘一面が黄色や紫に染まったように見える。黄色、緑、紫の絨毯を幾度も越えて、赤レンガの町が見えてくる。Cowraだ。
 Cowraを過ぎるとほとんど平原となる。ただ西を目指し車を走らせる。West Wyalongを超えたあたりから、疎林が目立つようになる。日が傾き、橙色の光が道端の赤い土を一層赤く染める。時を同じくして、outbackの鳥たちが姿を見せ始めた。GalahやRed-rumped Parrotに混じって、Indigo Blueの背中が光り輝く全身ほぼ緑色のMallee Ringneckや、上面の土色とは対称的に黄色、赤、橙色、青と鮮やかな下面を翻して飛ぶBluebonnet、髪の毛が逆立ったかのような頭と飛ぶときになにかオモチャでも転がすような音を出すCrested Pigeonたちがそうだ。

 太陽が西の地平線へ隠れようとする頃、ようやく赤く染まった小さな町が見えてきた。懐かしいLake Cargelligoの町並みだった。

 夕食はI氏のリクエストで、T-borneの食えるホテルのバーへ。オーストラリアへ出かけたことのある人ならご存知だろうが、バーは日本のように女性が酌をしてくれるところではないし、アメリカの西部劇のようにカウボーイが入ってき銃をぶっぱなすような物騒なところではない。日々の仕事を終えた農夫たちが家に帰る前にビールを一杯飲み、友人たちとAFL(Australian Football Reague)やクリケットを見ながら、他愛のない話を談笑するための場所だ。
 僕たちはそれぞれSeafood Basket(単なる揚げ物の寄せ集め)とT-borne頼み、Toohey's Old(黒ビールらしくない、癖のないビール)とVictorian Bitter(今や定番になりつつあるオーストラリアでは有名な銘柄。普通はVBと呼ぶ)を持って席についた。運ばれてきたT-borneを見てI氏が一言。「これねぇ…」。気持ちはよく分かる。以前、長靴を食べているようだと言った人もいたっけ。それでも「いや、けっこう好きですよ」と食べてしまったこの人はなかなかすごい。普通は顎が疲れ、こめかみが痛くなって全部食べられなくなるのに。でも、彼は酒が入ると眠くなる体質らしく、グラス半分も飲まないうちに、「眠くなりました」と言って、部屋に帰るなり7時半だというのにとっととベッドに入ってしまった。

 9月8日(水曜日)Lake Cargelligo - Round Hill Nature Reserve - Lake Cargelligo

6時起床。Iさんは朝から散歩へ。僕は寒いので朝からシャワーを浴びる。今日はRound Hill Nature Reserveへ脚を延ばす。Sydneyより30分、いや、45分くらい遅いだろうか。7時なのにまだ日が昇りきっていない。Eubalongへの分岐の近く、bluebushの低い藪が広がる原野で立ち止まる。車を停めて鳥を探していると、対向車がスピードを緩めて窓を開けて一言"Are you all right?"。故障して停まっていると思われたらしい。町と町の距離が長く、途中に人家すらないことが多いオーストラリアのoutbackでは、車の故障が生死に関わることすらある。数日後、Sydney行きの列車の中で、Queensland州Julia Creekで車の故障から熱死した若い女性の記事を読んだ。
 bluebushの草原での目当ては全身真っ青で白い羽を持つWhite-winged Fairy-wrenだ。日が昇って暖かくなってくると、運良く藪から姿を出してくれた。朝の光の中で、青い体が少し赤くも光って見えた。
 Round Hillへの道中は、僕の好きな景色の一つだ。赤茶けた砂埃を巻き上げ、青い空と新緑の大地の下、まっすぐに突き進む。時折、エメラルドグリーンのMallee Ringneckや黄色と赤のコントラストのBluebonnet、さらにはおなじみ灰色の翼に濃桃色が赤い大地に調和したGalahが目の前を横切っていく。埃っぽい朝陽の向こうに、黒い影が次第に大きく近づいてくる。大小二つの影はWestern Grey Kangarooの親子だったらしい。スピードを緩めると、こちらの気配を察知したのか、mallee(ユーカリの一種)の中へ消えていった。

 Round Hillの手前、Nambine Nature Reserveの入り口で鉄道がまっすぐに交差している。こちらも道路同様にどこまでもまっすぐだ。線路脇の電線では3羽の小型の鳥が止まっている。3羽とも小さなHorsfield's Bronze-Cuckooだった。春を待ちきれずに南に下りてきたのだろう。

 Round Hill着午前9時。malleeの茂った林の中は、アカシアやbluebushの黄色や白の花で彩られていた。か細い声に双眼鏡を向けると、小さな白黒の鳥が目に入ってきた。あれ、Black Honeyeater(写真左)だ。何回ここに通っても見られなかったのに、見られるときはあっけないもんだ。少し大型のミツスイがmalleeの中から飛び出し、滑空をしている。黄色の羽が目印のWhite-fronted Honeyeaterだ。遠くでは、「ピピポッ、ピピポッ」と繰り返し単調でのどかな声が聞こえてくる。姿こそ見えないが、Crested Bellbird。上空から賑やかにおしゃべりしているのは、青い空に青灰色の腹が溶け込んだWhite-browed Woodswallowだ。
 ここでの我々の目当ては青と赤の小鳥。malleeの林が切れた潅木帯で細い声。予想がずばり当たって尾の青いSplendid Fairy-wren(写真右下)が出て来た。彼らは大抵familyで生活しており、中には必ずと言って良いほど綺麗なオスが入っている。案の定、藪の中で青っぽい鳥が見え隠れしている。陽光の中、全身真っ青のオスが出て来たとき、思わず「キレイ」と声を上げてしまった。
 赤い鳥Red-capped Robin(写真左下)はI氏が見つけた。普段は警戒心が強く、赤い色がフラッシュするだけだが、囀るのに忙しいからだろうか、遠方からの我々を歓迎してなのか、5mの至近距離でゆっくり見ることが出来た。

 昼食を取るべくRound Hillを後に。砂埃の向こうから、大きな鳥が飛び出した。Wedge-tailed Eagleだ。このワシは体長だけでも1mを超え、翼長は2mにもなるオーストラリア最大の猛禽。しかし、オーストラリアでは別に珍しい鳥ではない。このような大型の鳥がかくも普通種でいられるのは、それだけ自然が豊かだからとも言えるが、原因は他にあると思っている。この個体がそうだったように、彼らは道端で轢れたカンガルー、ウシ、ウマ、ヒツジ、その他の鳥や動物を食べている。これによって、本来淘汰されるべき狩りの未熟な若い個体も生き残ることが出来るようになったのだろう。もっとも、轢死した動物を食べることは、危険と隣り合わせでもある。友人RJが以前、「いやぁ、Wedge-tailed Eagleを轢いちまったよ」と教えてくれたように、彼らもまた車社会の犠牲者になり得るのだ。
 一方、カンガルーの轢死はオーストラリアでは小さな問題とは言えない。彼らは開けたところで餌を採るので、道路際に出てくることも多い。本来夜行性に近いのか、光を浴びると硬直してしまうらしい。道路上で固まってしまったらどうなるのか、先は見えている。彼らはまた、頭の向いている方向にしか動けない。例え車が来ていようが、頭が道路側に向いていたら、避けることは出来ないようだ。必然として轢死が増える。それでもカンガルーは減らないらしい。

 Lake Cargelligoのサンドイッチショップでチキンサンドとジュースを購入し、湖岸でランチ。ぽかぽかと暖かい陽射しの中、ペリカンがゆっくりと上空を舞う。空はどこまでも青い。岸辺では昼寝を楽しんでいる人たちの姿が見える。どこまでものどかな一コマ。
 湖岸の木にはWhite-breasted Woodswallowがとまっている。しばらく見ていると、湖面に向かってすーっと滑空し、すぐに木の枝に戻った。彼は湖面を飛ぶトンボを狙っていたらしい。2回に1回は掴まえている。かなりの確率だ。

 食事の後、再びRound Hillへ。道中でWhite-winged TrillerやSpiny-cheeked Honeyeaterを拾う。一面黄色の花畑からはSplendid Fairy-wrenやMulga Parrotが出入りしている。エメラルドグリーンの体に赤、青、黄色と色とりどりのパッチを身につけたMulga ParrotはRingneckやBluebonnetとは異なり、道路脇の開けた環境にはあまり姿をあらわさない。その代わり、性格はおっとりしていて、近寄ってもすぐに飛び立つようなことはない。花びらでも食べているのだろうか、しばらく花畑でたたずんでいたが、林の中へ帰っていった。

 気がつくと、既に日は西に傾いている。赤い大地が一層赤くなってきた。砂埃を巻き上げ、Lake Cargelligoの町へと車を向ける。近くのEubalongへと帰る車だろうか、時折反対側を砂煙の塊が近づいてきて、すれ違う。対向車が通った後は世界が一面黄土色へと変わる。青いはずのパルサーもまるで錆びついたかのように赤茶色に染まっている。

 昨日同様、OZスタイルの夕食を済ませ、早々にベッドに寝転がる。I氏は「ちょっと消化不良気味なので」と図鑑と照らし合わせながら、見た鳥を一つ一つ読み上げている。うーん、年寄りみたいや…。彼の読み上げる声が眠気を誘う。明日はもう東へ向かう。旅も半分が過ぎた。

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