ブータン探鳥記

ブータン探鳥記 1 


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春のプナカ・ゾン© 2011 Koji TAGI

 ブータンというと、どんなイメージを持つだろう。GNH(幸福度指数)を用い、幸せな人々が住む国、チベット仏教を中心とした敬虔な仏教徒の国、ネパールと並ぶ、ヒマラヤのすそ野の国、近年まで鎖国状態にあったミステリアスな国。いや、ブータンそのものを知らないという人も多いに違いない。

 そのブータンという国に仕事で関わることが決まったのは昨年の2月。JICAの仕事でブータンからの研修員を15名受け入れたことがそもそもの縁の始まり。絶滅危惧種のBlack-necked Crane(オグロヅル)の世界でも有数の越冬地のPhobjikha,という土地で、王立自然保護協会と共に、エコツーリズムの開発を行うことになったのだ。事業の承認を得たのは昨年の10月で、この5月から本格的に業務が始まることになった。第1回目の渡航日程は5月9−22日に決まった。

 仕事はもちろんのことだが、ブータンで楽しみにしていたもう一つのことは、バードウォッチングだ。あまり知られていないのだが、ブータンは野鳥の種類の豊富な国で、欧米からバードウォッチングに訪れる人が多い。地元のツアー会社によると、近年バードウォッチングを目的とした観光客は増加傾向にあるという。ブータンの面積はほぼスイスと同じで、約45,000km2だが、これまで記録された種類数は620種を数える。人口は約60万人と小さく、標高は150mから7500mと幅広い上に、国策で最低国土の60%以上を森林として保護している上(現在の森林被覆率は72%強)、26%が保護区として保全されていることが野鳥の種類の豊富な理由だろう。ちなみに、生物多様性条約では、2010年の愛知ターゲットで陸域及び内陸水域の17%を保護区とするように促しているのだから、ブータンはすでにそれを達成しているのである!この国で野鳥観察を楽しまずして、バードウォッチャーとは言えまい。昨年8月の訪問時に買った”Birds of Bhutan”をゴールデンウィーク中、毎日のように眺め、見たい鳥を絞り込んだ。ぜひとも見たいのは、キジの仲間のBlood Pheasant(ベニキジ), Himalayan Monal(ニジキジ), Satyr Tragopan(ヒオドシジュケイ)である。それぞれ個性的で、中でも後の2種は写真を見る限り、筆舌に尽くしがたい美しさである。イソヒヨドリの仲間のBlue-capped Rock Thrush(モンツキイソヒヨドリ)も変わった羽色で見てみたい。他にもbush robinの仲間(ルリビタキの近縁種)、真っ赤な、長い尾が印象的なFire-tailed Sunbird、ずっと見逃しているRufous-bellied Niltava(コチャバラオオルリ)、名前の素敵なUltramarine Flycatcher(マユヒタキ)やSapphire Flycatcher(サファイアヒタキ)、赤いマシコの仲間、黄色と黒のシメの仲間も見てみたい。気持ちが十分に盛り上がってきたところで、後は仕事の空き時間を待つだけである。
 
 5月12日 Thimphu郊外
 
 急きょ祝日で午前中仕事がなくなったので、Thimphu郊外を車で観光する。せっかくなので、トレッキングコースを少し紹介してもらうことにし、その際、双眼鏡を持って行った。
 ティンプー北部のターキン保護区では、渡ってきたばかりのサメビタキの姿があちこちで見られた。日本でも見られる鳥だが、日本ではこんなに頻度が高くない。あちこちの針葉樹の枝先に止まっている。大きな、コルリのような声で鳴いている鳥は何だろう。藪の中から声がするものの、姿が見られないところもコルリそっくりだ。沢沿いのblue pineの枝で何かさえずっているのを見つけた。白い眉斑に、喉から下がオレンジ色。上面は黒なんだか、青なんだか…。最初はWhite-browed Bush Robin(キクチヒタキ)かと思ったが、どうやら少し違う。Indian Blue Robin(アカハラコルリ)が正解らしい。この仲間の性質からして見られないと思っていただけに、いきなり嬉しい鳥との遭遇だ。カメラを向けたら嫌がられ、藪の中に逃げ込んだ。アカハラコルリの声はこの後も頻繁に聞いたが、姿を見かけたのは結局この1回だけだった。
 ターキン保護区からさらに奥に入っていくと、地衣類が生え、苔むした雰囲気の良い場所に出た。ParoとThimphuの間を結ぶトレイルの入り口があるのだそうだ。さっそく、トレイルに少し足を踏み込む。Blyth’s Leaf Warbler(ヒマラヤムシクイ)の群れの中に見慣れない顔の小鳥。White-browed Fulvetta(ノドジロチメドリ)らしい。藪の中からはごつい、目つきの悪い鳥が姿を現す。Spotted Laughingthrush(シロボシガビチョウ)だ。赤と黒のサンショウクイの仲間はどうやらLong-tailed Minivet(オナガベニサンショウクイ)のようだ。道路沿いでは、White-thoated Laughingthrush(ノドジロガビチョウ;写真右)) ほんの2時間ほどの散歩だったが、大いに楽しめた。

 5月13日 Thimphu - Dochu La Pass - Wandue Phodorang - Punaka - Phobjikha

 この日から三日間は、ブータンの旅行形態の勉強のため、事業サイトのPhobjikhaへのスタディツアーだ。旅行客になりきり、Phobjikhaを実際に案内してもらう。私はバードウォッチング、フラワーウォッチングなど、自然を中心とした案内を依頼した。実は生き物のガイドというのは容易ではない。野鳥や花に対する知識はもちろん、見つけるというスキルが必要であり、1年、2年で習得できるものではない。

 一方、ブータンの旅行産業は独特で、公定レートで1日250ドルと定められている。この250ドルの中に、ガイド料、宿泊料、車両借上費(ドライバー、ガソリン代を含む)、食事が含まれている。含まれていないのは、ジュースやお酒などの一部の飲み物や、より高級なホテルを手配した場合のアップグレード代、そして、特殊技能を持ったガイドへのガイド料である。今回は規定料金内でのガイドを依頼した。

 私のガイドはアメリカのクモザルを思い起こさせる細長い顔のお兄ちゃん。名前は聞いたが、思い出せない。サッカー選手だが、エグザイルだかに、こんな顔の人いたっけなぁ、というタイプ。とにかく、人見知りをするタイプなのか、ぼそぼそしゃべる上、つっけんどんで無愛想である。一方、ドライバーも人は良さそうだが、静かなお兄ちゃん。ということで、出発して早々、ほとんど無言状態である。
 ガイド君はこれまで欧米のバードウォッチングツアーには添乗したことがあり、ほとんどのブータンの野鳥は見たとのこと。こちらが「キジ類が見たい」と言うと、「必ず見せられるかどうかはわからない」との返答。まぁ、間違っちゃいない。いい加減なことを言うガイドよりも、鳥のことは知っているようだ。

 Thimphuから峠を上がりきったDochu Laで少し休憩を兼ねて、早朝バードウォッチング。Green-tailed Sunbird(ミドリオタイヨウチョウ)などが見られるが、交通量が多く、落ち着いて鳥を見られない。ブータンの東西を結ぶ大動脈のこの道沿いは、以前は多くの野鳥が見られる名所として知られていたが、環境は悪くなっていないものの、近年交通量が増え、見られる鳥の種類数は減っているとのこと。

 しばらく車を動かし、ガイドが連れて行ってくれたのは、Royal Botanic Gardenという公園。名前からすると植物園だが、殺風景。公園内には池があり、ガイドいわく、アオシギがたまに見られるとのこと。ちなみに、公園の入り口にアオシギとWard’s Trogon(ビルマキヌバネドリ)が見られるかのような看板があったが、写真はアオシギではなく、ハリオシギであった。まぁ、いい加減なものである。

 池の周りを散歩していると、ブータンではおなじみのRufous Sibia(ズグロウタイチメドリ)が顔を出した。カッコウ、ツツドリ(”Himalayan Cuckoo”として、別種とする考え方もあるらしい。日本のツツドリとは声が違う)、ホトトギスなど、カッコウの仲間の声が響き渡り、日本の信州の山の中のような錯覚を起こさせるが、Large Hawk Cuckoo(オオジュウイチ)のけたたましい声が「日本とちゃうぞ!」と目覚めさせてくれる。ここで見られた鳥のハイライトはなんといってもScarlet Finch(シュイロマシコ)のオスである。まさに真っ赤なマシコで、こんな目立って森の中でどう生活していくのだろうと思ってしまう。他に見られたのは、Wedge-tailed Green Pigeon(オナガアオバト), Striated Laughingthrush(シロスジガビチョウ), カケス、ハイイロオウチュウなど。
 鳥以外では、白いランが満開だったこと、シャクナゲの仲間が何種か見られたことが印象に残った。

 Royal Botanic Gardenから出て、峠を下る。Dochu La PassまでのBlue Pineの乾燥した森と異なり、広葉樹の美しい森が広がる。そのうち、標高がさがってくると、今度はChir Pineという別の針葉樹の森に変わった。針葉樹林に鳥が少ないのは万国共通らしい。見られる鳥の数がぐっと減った。PunakhaでPunaka Zhongを外から見て、White-bellied Heron(シロハラサギ)やIbisbill(トキハシゲリ)を探すが、出たのはRiver Lapwing(カタグロツメバゲリ)のみで空振り。こちらがゾンの写真を撮っている間、ガイドはキュウリを買ってかじっていた。やる気ないなぁ、君。
 
 Punakhaの町では、久しぶりにOriental Magpie Robin(シキチョウ)に対面。羽色はマレーシアやタイで見たものと同じだが、声は全然違う。電線には見かけない鳥が。青と赤と黒と、なんとも派手な配色。Blue-capped Rock Thrush(モンツキイソヒヨドリ:写真右)のオスである。こんなにアッサリと見られるとは思っていなかった。この鳥、開けた環境が好きらしく、標高2,000m前後の開けた林でよく目にすることができた。

 昼食後、Wangdue Phodorangの町を抜け、谷沿いをPhobjikhaに向けて上がっていく。途中、鳥の声が聞こえたり、姿が見えた場所で立ち止まる。Blue-throated Barbet(アオノドゴシキドリ), Great Barbet(オオゴシキドリ)など、その度に新しい鳥が増えていく。

 何回目かのストップで、ガイドが「見えるか?」と聞くので、崖の木を目を凝らしてみる。何べん見てもわからない。「あぁー、分からないかなぁ、どうしたら分かるかなぁ」と言いながら、珍しく雄弁に説明してくれる。10分近く探してようやく見つけた鳥はYellow-rumped Honeyguide(インドミツオシエ)。巨大なミツバチの巣の下の木で、スズメほどの大きさのこの鳥の仲間は、英名の示す通り、動物にミツバチの巣の在りかを教えて、動物が巣を壊して食べている間におこぼれに頂戴するというユニークな鳥なのである。

 午後になり、標高が上がるにつれて霧雨状態になってきたが、それでも時々鳥を見に立ち止まる。頭に冠羽のあるStripe-throated Yuhina(ノドフカンムリチメドリ)やRufous-vented Yuhina(チャバラカンムリチメドリ)、長い尾羽の印象的なYellow-billed Blue Magpie(キバシサンジャク:写真左)などを観察。
 
 Phobjikhaに行く前に標高約3,300mのPele La Passへ立ち寄る。ここには道路の付け替えによって使われなくなった道路があり、交通量が少ないことから野鳥観察には絶好の環境なのだという。ガイド君はこの道路沿いで1週間ほど前にSatyr Tragopan(ヒオドジュケイ)とHimalayan Monal(ニジキジ)を見ているとのこと。

 時間帯が2時を過ぎており、雲が出てきてあまり良くない天気ではあったが、峠を左に曲がり旧道へ。Yuhinaの仲間がさっそく顔を出す。遠くの木のてっぺんに止まっているのはホトトギス。日本では平地でも見られる鳥だが、標高3,000mを超える高山で見られるとは思わなかった。また、声が全く日本のものと変わりないのも興味深い。この鳥は変わった渡りをする鳥で、日本などの北東アジアと、ヒマラヤ付近を繁殖地とし、越冬のためにアフリカに渡る。北東アジアとアフリカの間を渡る鳥は他にはハヤブサの仲間のアカアシチョウゲンボウくらいしか聞かない。

 時間帯も悪いのか、鳥の出は芳しくない。おまけに道路は途中で倒木のために通行できなくなった。「どうする?」とガイドが聞くので、「歩こう」と提案。峠まで見られたシャクナゲの仲間は数も増え、赤、黄色、ピンクの花が霧の中に映える。Rufous-gorgetted Flycatcher(ノドグロヒタキ), Yellow-billed Blue Magpie(キバシサンジャク), Spotted Laughingthrush(シロボシガビチョウ), White-capped Water Redstart(シロボウシカワビタキ)などが出るが、いまひとつ物足りない。道路の左側は傾斜30度くらいはあるだろうか、急な斜面になっていて、如何にもなにかいそうだなと思っていたら、けたたましい声と共に、斜面の上から下に灰褐色で喉の白い大きな鳥が飛んで行った。「Himalayan Monal(ニジキジ)のメスだよ」とガイド君。メスかぁ、まぁ、それでも一応見たことにはなるんだな、と思いつつ、飛んでいった方向を双眼鏡で追いかけるが、残念ながら下りていなかった。

  「雨が降りそうだから、そろそろ車に戻ろう」とガイド君。君は本当にやる気がないなぁ。ガイド君曰く、キジの仲間は晴天の日の早朝か夕方が最も見やすく、こういう天気の悪い日は活動が鈍るのだそうだ。
 ごねても仕方がないので、もと来た道を戻り始めた。しばらく歩くと、ガイド君が「いた!」と一言。何がおるねン?双眼鏡でガイドの見る方向に目をやると、20-30m上の崖に真っ赤な鳥の姿。間違いない、Satyr Tragopan(ヒオドシジュケイ:写真左)のオスだ。こういうとき、日本人バードウォッチャーというのはあさましいもので、「双眼鏡で見てみろ、きれいだぞ」とガイド君が言うのを無視し、カメラを構え、ただひたすらシャッターを切る。距離にして、30-40mくらい離れているだろうか、豆粒ほどの大きさなのだが、幸い相手は大きい(カラスより大きい)上に、のんびりとたたずんでいる。いやぁ、確かに美しい。月並みな言葉なのだが、他に表現のしようがない。顔は濃い青で黒い縁取りがある。首の後ろから喉、背、胸、腹にかけては真っ赤でビロード状の光沢があり、胸から腹にかけては水玉模様の白斑がある。背中は濃い灰褐色でやはり白い白斑がある。積年見たいと思ってきた鳥なのだが、図鑑で見るよりも実物はよほど美しい。この仲間の鳥は繁殖期になると顔の青い部分のひだを伸ばして広げる、独特のディスプレイを行う。あいにく、のんびりと餌を採るだけで、ディスプレイは見られなかったが、10分ほど全身を見せてくれた後、藪の中に消えて行った。「先週いたので、ひょっとしたらと思ってきてみたが、運良く居てくれたな」とガイド君。君は無愛想だけど、大殊勲や。

 夕方5時前にPhobjikhaに到着。Phobjikhaは標高が2,800-2,900mと結構高い。ホテルが満室のため、民宿をやっている農家に泊めてもらう。これが意外にヒットで、農家の2階の一部を客室として使っており、部屋は清潔だし、居間にはお茶があり、薪ストーブで温かい。食事も案外おいしく(ご飯、焼きそば、ジャガイモと主食系が多かったが)、お湯の出るシャワーがないこと以外は大満足した。
 ガイド君と翌日の予定について話をした後、9時前には就寝した。



ブータン探鳥記2へ続く


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