海外でバードウォッチングをする人で、クロハラシマヤイロチョウ(英名: Gurney’s Pitta)という鳥を知らないバードウォッチャーはほとんどいないだろう。クロハラシマヤイロチョウはタイ南部とミャンマー南部に生息する鳥で、その名の通り、鮮やかな羽色で有名なヤイロチョウの仲間である。クロハラシマヤイロチョウが有名なのは、皮肉にもその危機的な生息状況のせいである。1952年にメスが観察された後、30年余りにわたって記録がなく、完全に絶滅したと言われていた種で、1980年代半ばにバードウォッチャーによって再発見された。近年にミャンマーの個体群が発見されるまで、その個体数は多くても40つがいか25つがいと言われていた。 クロハラシマヤイロチョウはただ単に珍しいだけの鳥ではない。オスは、頭は瑠璃色の帽子、顔には黒いメガネ、喉からお腹まで雷様のパンツのような黄色と黒の縞模様、背中は茶色、尾は青と書けば、少しは雰囲気をつかんでもらえるだろうか。 今回の旅行の最大の目的はこのクロハラシマヤイロチョウを見ることである。クロハラシマヤイロチョウはタイ南部からミャンマーにかけて局地的に分布しているが、有名なのは、Khao Pra-Bang Khram (別名Khao Nor Chu Chi)という野生生物保護区で、バードライフインターナショナル等の自然保護団体やマヒドン大学が個体数回復プログラムを行っている場所でもある。 クロハラシマヤイロチョウは数が少ない上、警戒心の強い鳥である。ただでさえよく茂った熱帯林で地上性のヤイロチョウの仲間を見つけるのは難しい。いい加減なガイドや、独力ではほとんど見つけられないことをボルネオで散々学習していたので、「彼なしではクロハラシマヤイロチョウは見られない」とまで称されるYotin Meekaew氏(以下、ヨティン)に12月上旬に連絡を取り、二日間のガイドを頼んだ。ヨティンからの紹介もあり、宿泊施設はMorakot Resortとした。 Khao Nor Chu Chiには、他にも魅力的な野鳥が生息している。美しさではクロハラシマヤイロチョウ以上と言われ、「森の宝石」と讃えられるヤイロチョウ類の中でも、最も美しいとまで言われるキマユシマヤイロチョウ(Banded Pitta)、日本のヤイロチョウに声も姿もそっくりなミナミヤイロチョウ(Blue-winged Pitta)、茶色い帽子にエメラルドグリーンのお腹が特徴的なズグロヤイロチョウ(Hooded Pitta)、ハトほどの大きさの巨大なオニヤイロチョウ(Giant Pitta)、ハート型の顔板に赤茶色の羽が特徴的なニセメンフクロウ(Oriental Bay Owl)、赤いお腹が鮮やかなキヌバネドリの仲間、青と黒の縞模様の帽子に、赤い嘴、オレンジのお腹のカザリショウビン(Banded Kingfisher)などなど。 クラビ(Krabi)までの飛行機も手配し、準備万端。後は荷物を詰めるだけだ。 3月28日 無事にバンコクでの仕事を終え、この日から有休を使ってタイ観光の始まり。貯まったマイレージを使って、妻が到着するのは夜の10時過ぎ。慣れないバンコク新空港で待っていると、30分遅れで妻の乗る飛行機の到着のアナウンス。11時を回って、日本人が続々と出てきても、妻だけは出てこない。12時半まで待っても出てこないので、さすがに心配になり、空港内の出口3箇所を見て回ったが見つからない。バンコク新国際空港は出口が3箇所あり、一応到着便がそれぞれどこから出てくるのか表示が出るのだが、到着した客が必ずしもその出口から出てくるとは限らないため、待ち合わせしづらいのが欠点だ。こちらが見逃した可能性が高いと判断し、タクシーを捕まえ、市内のホテルへ戻る。ホテルに入ってもまだ着いていなかったため、何かあったのかと思い心配していたところで、無事に妻が到着。聞くと、空港の待ち合わせ指定場所で見つからなかったため、客引きのおばちゃんに頼んで、タクシーに乗せてもらったとのこと。客引きにつかまると通常はぼられるのに、持ち金が少なく、600バーツでホテルまで送ってもらったらしい。相変わらず、土壇場で帳尻を合わせるうちの嫁だが、それでもなんとか無事にやってくるところはたいしたものである。 3月29日 バンコク発18:55。クラビに向けて飛び立った飛行機は、少し空席が目立つ。明らかにビーチリゾートを目指すであろう赤鬼風白人たちと、タイ人女性と一緒のアジア人、白人男性カップルが数組。クラビは有名なビーチリゾートがあるらしいが、どうしてアジアのリゾートに来る白人たちやカップルたちはルーズで、怪しげな風貌の人が多いのだろう。とはいえ、向こうからすれば、三脚だの望遠鏡だのを詰めた荷物を抱えたアジア人二人連れの我々の方が、ビーチリゾートにあいふさわしくない連中であり、「なんじゃ、あいつら!?」と言いたいところだろう。 クラビ到着は20:20。以前住んでいたボルネオ島のサンダカンやタワウの空港を思い起こさせる、ゲートが3つしかないこじんまりした空港は、驚くことになんと国際空港なのだそうだ。 到着と同時に、飛行機の中にまで響いてくるほどの土砂降りで、前途多難な印象を与えたが、タクシーに乗るとそれは現実になった。リムジンカウンターで宿泊先のMorakot Resortの名前を告げ、1500バーツを支払う。「出口付近でチケットをドライバーに渡して、行き先を告げて」と言われ、出口へ向かう。途中、何回かタクシーのドライバーに声をかけられるが、行き先を告げると片手を上げて断られた。近い客を拒否するというタクシーの運ちゃんの話は日本ではよく聞くのだが、遠い客を断るというのはルーズな東南アジア人気質だからか。人柄の良さそうな、緒形拳かマレーシアのバダウィ首相風のオジさんが声をかけてくれた。「どこへ行くの?」、「Morakot Resortという、Emerald Poolのそばなんだけど・・・」、「連絡先はわからない?」、「電話番号を知っているけど」、「そっか、そんじゃ行こうか」とちょっとしたやり取りの後、無事に出発。 クラビからの国道はタイ南部のハチャイ、さらにはマレーシア国境へと続いている。拡幅工事の最中なのか、あちこち穴ぼこが開いている中を80キロくらいのスピードでバダウィさんが飛ばす。途中何度か携帯をかけているんだが、電波の状況が悪いのか、電話に誰も出ないのか・・・。30分ほど走った後、大きな道をそれ、地方道に入る。Hot Streamという看板が目に入ってきた。そろそろ近いのかと思い始めていたところ、バダウィさんが、「教えてもらった携帯電話の番号通じないんやけど・・・」。いきなりピンチである。あたりは真っ暗で、人家の明かりもほとんど見えない。おかしいなぁ、確かに正確に書き留めてきたはずなんだけどなぁ、今回はどうも色々ケチの着く旅行だ。 さらに10分くらい走った後、近くの民家のおっちゃんをようやく捕まえたバダウィさんは、「すぐ近くだそうだよ」とニカッと笑う。こっちの方がほっとしたワ…。 そこからほんの数百メートルでMorakot Resortに無事到着。時計は10時前だった。リゾートはアジアンテイストのカジュアルな感じのこじんまりした雰囲気。ちょっとマレー系の風貌をした女性が出てきて、「Yotinが明日の朝6時に来るって言ってたわヨ」。 前日の晩は夜中の2時過ぎに寝床に着き、この日も夜が更けてからの到着で明日からジャングルを歩くというのに、既に体はへとへとに疲れていたが、「シャワーを浴びんと」と、嫁さんは浴室へ。「ひいいっ」と悲鳴のような声が聞こえたので見に行くと、「虫がいる!」と妻。見ると、黒いコガネムシが風呂場でのそのそ歩いている。捕まえて、外に出してやると、また嫁さんが叫ぶ声。なぜか同じ種類のコガネムシがまた一匹。再び捕まえて部屋の外へ。よくよく天井を見ると少し隙間が開いている。これでは虫が入ってくるわけである。嫁さんには諦めてもらってさっさとシャワーを浴びてもらう。今度は、「ひぇぇ、ぶるぶるっぶるっ」とにぎやかな妻の声が風呂場から聞こえてきた。「水しか出ないっ!」。エアコンは着いているし、テレビも見られるのに、シャワーは水シャワーとは恐れ入った。とは言え、何回もジャングルに連れて来られている嫁はあきらめたのか、「寒い!」と言いつつもちゃんとシャワーを浴び、怪しいタイのアイドルの踊っているテレビを見ながらくつろいでいる。明日は5時半起きだ。 |
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