タイ北部ドイ・インタノン探鳥記

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ドイ・インタノン山頂の温帯林© 2007 Koji TAGI
 タイ北部チェンマイ近郊にあるDoi Inthanonドイ・インタノン)は古くからバードウォッチャーによく知られた探鳥地である。妻が一時帰国をしているのに加え、クリスマスを前にして職場では思うように仕事が捗らないこともあり、休みをもらってタイ北部のドイ・インタノンで探鳥することにした。

 チェンマイはタイ第2の都市で、国際線も飛んでいる。さぞかし大きな街かと思ったら、人口は15万に満たないそうだ。コタキナバルからはともかく、クアラルンプールからは直行便が飛んでいるかと思ったら、意外にもないらしい。KL、バンコクで2回乗り継ぐため、コタキナバルを11時30分に出発して、チェンマイに着くのは夜の8時を回る。隣の国に行くだけなのに、えらく時間がかかるスケジュールを組んでしまった。

 初めて行く土地であることと、タイ語ができないことから、ガイドを雇うことにした。Nature Trailsはタイのフィールドガイドを書いたPhilip RoundやKamol Komolphalinが関わる探鳥ツアー会社である。メールで連絡をすると、見積もりとコースの概要をすぐに回答してきた。3日間で24000バーツ(約72,000円)はちょっと高いが、食事、ガイド料、交通費込みなので、まぁこんなものなのかもしれない。

2005年12月6日 コタキナバルークアラルンプールーバンコクーチェンマイ

 
空港にはフライトの1時間以上前に着いた。換金所が2箇所あるので、一旦到着ロビーに下りる。コタキナバル市内の換金所もそうだったのだが、なぜかバーツをほとんど扱っていない。わずか3000バーツ分だけしか交換できなかったので、後はKLの空港で換金することにする。

 フライトは予定通り11時に出発。マレーシア航空の国内線はボーイング737が飛んでいることが多いのだが、これが狭くて窮屈。機内は相変わらず寒い。エコノミーの5番席はビジネスクラスのすぐ後ろなのだが、カーテンを通して冷たい空気が流れてくるので、本当に寒い。これまでの経験であらかじめ長袖の上着を用意してきていたので、私自身はどうということはなかったのだが、「ブランケットをくれ」という客が続出。マレーシア航空の関係者にはよく考え直して欲しいところである。

 クアラルンプール国際空港着は14:00。台湾からの国際線だったせいか、到着はGゲート。KLIAは前のマハティール首相が「100年間使える空港を」と建設を推進した空港で、確かにゆったりとしたスペースと機能性で、比較的よくできた空港だが、国際線と国内線の乗り継ぎが上手くデザインされていない。日本や台湾からの便でコタキナバルから乗るような場合、到着ゲートはCやGゲート(国際線ターミナル)に到着する。ここで国際線に乗り継ぐ場合、KLIAでは入国のカウンターを素通りして国内線ターミナル(A/Bゲート)に入り、改めて出国手続きをして、元来た道を戻って国際線ターミナルに入るという、なんともややこしい手続きをしなくてはいけない。このややこしい手続きを解消するには、国際線に乗る客を予めコタキナバルで出国手続きさせてしまえば良いだけの話なのだが・・・。

 出国手続きを済まし、換金を済ませ、出発ゲートへ急ぐ。KLからバンコクはわずか2時間。国内線のコタキナバルーKL間よりも所要時間は短い。機内は9割の入り。結構混んでいる。さっき食べたばかりなのに、またまた機内食。sweet and sour fish(酢豚の魚版)を頼んだら、ご飯ではなく麺が添えてある。サラダは麺なのに、ダブっているところがちょっとヘン。2時間のフライトでは、ヘッドホンも配られないらしい。機内では暇つぶしにダライ・ラマの自伝を読む。中国による一方的な侵略の歴史、その後のチベットの復権運動が淡々と描かれている。中国やアメリカのように、自分たちのイデオロギーを一方的に押し付けることの恐ろしさがよく描かれている本だ。

 バンコク到着は15:00。マレーシアとは一時間の時差がある。事前にインターネットで調べたところでは、ボーディングパスを乗り継ぎカウンターで受け取り、国内線ターミナルへ移動するバスに乗せてもらえるという話であったが、乗り継ぎカウンターで聞くと、「一旦入国してください」とのこと。ちょうど日本からの便が到着したのか、入国審査には少し手間取る。バンコクで国内線に乗り継ぐには、延々と通路を歩くことになる。到着したターミナルは第1ターミナルで、第2ターミナルを挟んだ国内線ターミナルまでは延々20分くらい歩くことになる。とはいうものの、ボンベイやシドニーのように、何度も人に聞かないと分からないような複雑さはなく、スムーズに乗り継ぎが出来る方だろう。

 国内線ターミナル入り口付近は、フードコートに集まる人の熱気や、レストランに呼び込む客寄せの声でなんだか空港らしさを感じない。ちょうど前の便が出た後らしく、3時間近く待たされる。毎回思うのだが、ドンアンムン(バンコク空港)はゲートから搭乗機までが遠い。バスに乗せられ、一旦国際線の乗り場まで行ったかと思うと引き返す。15分もバスに乗った後、ようやく搭乗。マレーシア航空の国内線と比べ、えらく機内は綺麗である。767(たぶん)は機内の改装をしたのか、座席も快適。紫中心のインテリアはちょっと抵抗感があるが。

 1時間ほどでチェンマイに到着。外を見ると、なぜか雨が降った後が。おかしいなぁ、乾季だと聞いてきたんだけどなぁ。

2005年12月7日 チェンマイ ― ドイ・インタノン国立公園

 朝5時起床。6時にガイドのRachenが迎えに来ることになっている。外はまだ真っ暗。チェックアウトを済ませ、ホテルのロビーで待っていると、細身の中年男性が入ってきた。Rachenはもともとバンコク出身だそうだが、チェンマイに住んで10年以上になるという。大学に勤務しているとあって、穏やかだが知性の感じられる人柄だ。

 チェンマイ市内を抜け、一路ドイ・インタノン国立公園に向かう。ドイとは、タイ北部の言語で山を意味するのだそうだ。「看板を見ると、文字が違うのが分かるだろ?」とRachenは言うのだが、角が取れたハングル文字というべきか、姿勢の良いアラビア文字というようなタイ語は幾ら見てもさっぱり分からない。天気はあいにくの曇り。しばらくすると雨さえ降り出した。「この時期は乾季のはずなんだが、低気圧が居座っているらしく、このところずっと雨なんだよ」とRachen。幸先良くないスタートだ。

 1時間半ほど走って、空が明るくなり始めた頃、国立公園のゲートをくぐる。雨は止んだものの、そのうち霧が出てきた。国立公園内の道はよく整備されていて、かなりのスピードを出している車も見られる。早朝なのに、交通量が多いのでRachenに聞くと、「ドイ・インタノンは冬を体感しにやってくる観光客が多いんだよ」という。こんな天気で山頂に行っても、霧か雨でなにも見えないだろうに、ぎゅうぎゅう詰めの車が次から次へと上がってくる。排気ガスと騒音をまき散らして山頂へ急ぐ車を尻目に、私たちは公園入り口から37.5kmにある公園のチェックポイント(通称、2nd Check Point)で車を停める。標高は1500mを超えているだろうか、かなり気温が低い。既に先着のバードウォッチャーたちが双眼鏡やカメラを構えている。霧が出て、見づらいのは見づらいが、なんとか見られないこともない。活発に動き回っているのはGrey-cheeked Fulvetta(メジロチメドリ)。このあたりで最も普通の鳥のようだ。灰色の顔に白いアイリング、黒い頭側線はマレー半島の山地に生息するMountain Fulvetta(マユグロチメドリ)を思い起こさせる。おなじみの黒と赤のオスと黄色と灰色のメスが樹冠を飛ぶのが見える。マレーシアなら、「ベニサンショウクイ」というところだが、タイの山地には4種類生息している。「羽の赤い部分がV字ならばShort-billed、U字ならばLong-tailed、U字が切れていたらScarletだよ」とRachen。V字に見えるこの鳥たちはShort-billed Minivet(コバシベニサンショウクイ)なのだそうだ。道路沿いに沢山集まっているのはヒヨドリの仲間のFlavescent Bulbul(カオジロヒヨドリ)にMountain Bulbul(ミヤマヒヨドリ)。電線に止まっている大型のヒタキはLarge Niltava(オオアオヒタキ: 写真右)。オスは濃い青の上面に黒い腹部をしている。あいにくの天気では真っ黒な鳥に見えてしまう。そのまんま小さくしたような鳥が潅木から出たり入ったりしている。Small Niltava(チビアオヒタキ)だ。お尻のあたりが白っぽいのが特徴。見づらい鳥と聞いていたが、そんなことはなさそうだ。

 霧が濃くなり、小雨も降ってきたので、一旦2nd Check Pointを離れる。標高1,000mくらいまで下ったあたりでようやく霧が晴れてきた。Siriphum Waterfallの近くにある公園に立ち寄る。川沿いでさっそくPlumbeous Redstart(カワビタキ)のメスを発見。岩とほとんど同じ灰褐色で、でかいハゼでもこびりついているようである。しばらく歩くと今度はWhite-capped Water Redstart(シロボウシカワビタキ)が出現。こちらはほとんど黒い体に白い頭、赤いお腹が目立つなかなか綺麗な鳥だ。時々、ぴくっと尾羽を上げる動作は確かにロビンの仲間らしい。滝のそばに集まっているのはヒヨドリの群れ。ほとんどがBlack-crested Bulbul(エボシヒヨドリ)。ここも日中は観光客が多く来るというので、観光客たちが集まる前に早々に撤退。今度は少し離れた畑地で車を停める。狙いはアカマシコやシマノジコだったが、なにもいない。杭の上にはタカサゴモズが止まっている。日本や中国で見られるものと異なり、頭の色は黒い。よく似ているが、頭の灰色と背中の赤褐色が綺麗なのがBurmese Shrike(ハイガシラモズ)。この他、Indochinese Cuckoo-shrike(ハイイロアサクラサンショウクイ)やGrey-breasted Prinia(ハイムネハウチワドリ)などが出現。

 昼も近くなり、少し天気も落ち着いてきたので、再び2nd Check Pointへ。相変わらず霧は晴れないが、サンドイッチを食べながら、のんびり探鳥。トラックの荷台を改造し、長椅子を荷台の両端に敷いた車がすし詰め状態で次から次に登ってくる。山ろくのChom Thongから登ってくる車で、自前の交通手段を持たない人はこうやって登ってくるらしい。Rachenは山に行ってすぐに降りてくる人たちを指して、「何しにきているのか、さっぱり分からない」と言うが、道路際で鳥を見ている我々こそ、一般の人たちには何しているのか、さっぱり理解できない存在に違いない。道路沿いでメジロチメドリやコバシベニサンショウクイを見ていると、黒っぽい顔に黄褐色の体の細長い生き物が2頭道を横切っていった。うーん、ジャコウネコの仲間かなぁ。

 鳥の出が悪くなってきたので、Rachenはテープを使い始めた。Collared Owlet(ヒメフクロウ)の声を流すと、それまで静かだった藪のあちこちから鳥の声がし始めた。メジロチメドリやヒヨドリ類に混じって、Rufous-backed Sibia(セアカウタイチメドリ)やRufous-winged Fulvetta(クリボウシチメドリ)も出てきた。「なんや、なんや、どこにフクロウがおるんや」とばかりに、藪の中から次々に顔を出し、賑やかに鳴き交わしている。小鳥たちにはフクロウやタカの仲間を見つけると、追い出しにかかる習性がある。多勢に無勢とはこのことで、沢山の小鳥たちに囲まれれば、オオタカのような大きな鳥でも逆襲することなく逃げ出す。フクロウ類の声をテープで流すのはこの小鳥の習性を逆手に取ったもので、小鳥たちが気付く前の短時間であれば有効である。フクロウの声に最もよく反応していたのはタイヨウチョウの仲間たちで、Black-breasted Sunbird(ムナグロタイヨウチョウ)に混じって、美しいGould's Sunbird(ルリオタイヨウチョウ)も出現した。

 ドイ・インタノン国立公園はカレン族やモン族の土地利用によって、森林伐採が進んでいる。途中には農地開発のプロジェクトは行われているわ、学校はあるわ、国立公園とは思えない場所もある。道路沿いの土地の多くは良くて二次林がある程度、畑地として利用されていたり、草地として放置されていたりで、良好な環境が残っているとはとても言い難い。それでも、2nd Check Pointからトレイルに少し入ると、40mくらいある高木が残っている。苔むした森の中は昼なお薄暗い。このあたりがGreen Cochoa(ミドリミヤマツグミ)の生息環境なのだそうだ。天気が悪いせいか、森の中はひっそり静まり返っている。さすがに、ヒメフクロウのテープも役に立たない。

 「こら、あかんな」と二人で顔を見合わせ、道路沿いに戻ろうとすると、聞き慣れない声。チメドリか?と聞くと、Rachenが「たぶん、Wren-Babblerだろう」と返事。近づいてくる声を探していると、なんだかえらく小さな影がすぐに目の前を横切った。「違う!これはSlaty-bellied Tesia(クロハラコビトサザイ)だ」とRachenがささやく。体長10cmほどの小さな小鳥だ。わずか1−2mの距離なのに、動きが素早く、双眼鏡に入れることが出来ない。Rachenは、「肉眼で見た方が良いよ」と勧めるが、暗くて肉眼ではあんまりよく見えない。動いた影に慌てて双眼鏡を向けると、オリーブ色の上面に薄墨色の腹、黄緑色の頭だけが鮮やかに見える。間違いなくクロハラコビトサザイだ。なんと変な体型だろう。尾羽はほとんどないに等しく、翼も短いため、卵のような体型をしている。その一方、嘴は不釣合いに細長く、ちょっと大きめの脚といい、橙褐色で異様によく目立つ。なんだか、Sサイズの鶏卵につまようじを突き刺したようだ。こういうずんぐりむっくりの体型の鳥は大抵潜行性が強く、見られないだろうと思っていただけに、感動ひとしおであった。

 気がつくと3時を回っていた。日没は5時半頃だそうなので、後2時間ちょっと鳥を見ることができる。Rachenが連れて行ってくれたのは3キロほど下った未舗装のトレイルだった。「ここで、たまにBlack-throated Parrotbill(キバネダルマエナガ)が見られるんだけど」とRachen。山吹色と黒のコントラストがなんとも派手な上に、頭が大きく、嘴が丸くて小さいという変な小鳥だ。なんとしても見たいと思っていた鳥の一つだが、そうそう運は向かなかった。気配すらなく、やむなくさらにトレイルを奥へ。このあたりはWhite-necked Laughingthrush(シロエリガビチョウ)やWhite-gorgetted Flycatcher(ノドジロヒタキ)も見られるそうだが、シロエリガビチョウの声が遠くで聞こえただけで、特にこれといった収穫はなかった。日没前にこの日最後に見られたのはCollared Falconet(モモアカヒメハヤブサ)。マレーシアに住むBlack-thighed Falconet(モモグロヒメハヤブサ)と比べ、顔の白黒パターンがパンダ状になっていて、愛敬のある顔だ。

 厚い雲に覆われたまま日没。この日の宿泊はDoi Inthanon Highland Resort。ハイランド・リゾートと言っても、麓のChom Thongにあり、高原の中のうっそうとしたホテルを想像していた私は思いっきり肩透かしをくらってしまった。これは名前負けしてるやろ・・・。池の傍にレストラン兼受付があり、点々とバンガローのような建物が立っている。我々の部屋は池を挟んだ反対側。日没と共に、妙な声が聞こえ出したが、Asian Barred Owlet(オオスズメフクロウ)とSpotted Owlet(インドコキンメフクロウ)なのだそうだ。晩御飯はRachenに一任し、適当にオーダーをしてもらう。ココナッツミルクのスープがあっさりしてとても美味い。Rachen曰く、「タイでも10本の指に入る人気のメニューだよ」。カイランの炒め物、パパイヤサラダ等・・・。明日も早起きなので、さっさと食べて、9時過ぎにはベッドに入った。



 
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