フィリピン・ルソン島探鳥記

1日目


フィリピン・ルソン島マキリン山で2009年5月20-22日に探鳥したときの旅行記です

 

1.出発まで 

今年は仕事も忙しいうえ、経済的にもあまり余裕がなく、東南アジアでのバードウォッチングはあきらめていた。代わりに、当初はゴールデンウィークに台湾で探鳥する計画を友人と立てていたが、航空券があまりにも高いのと、友人たちの都合が最後まではっきりしないのとで、台湾の探鳥は結局キャンセルすることになった。今年は海外バードウォッチングは無理だろうかと思っていたら、仕事でゴールデンウィーク明けにアセアン4カ国(ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピン)に行くことが決まり、せっかくなのでどこか1カ国で休みを取り、バードウォッチングをすることにしよう。

  4カ国のうち、マレーシアはすでにおなじみであり、わざわざ休みを取ってまでバードウォッチングをするほど見たいと思うような鳥ももうほとんどいない。ベトナムなら、間違いなく、Bar-bellied Pitta(ミドリシマヤイロチョウ)狙いである。ボルネオ以来、ヤイロチョウ類の魅力にはまってしまい、ミドリシマヤイロチョウは今もっとも見たい鳥の一つだ。しかし、ベトナムを最後にするスケジュールを組むのはなかなか難しい。インドネシアのジャワ島はあまり魅力のある鳥が多いとは言えない。どうせお金を使うなら固有種が多く、最も見たことのない鳥の多いフィリピンにしよう。フィリピンなら、仕事のスケジュールとも調整がつけやすい。アセアン4カ国での仕事も5月12日に始まり、19日に終わることが決まった。

次はガイド探しだ。マレーシアやタイのように、フィリピンでは、バードウォッチングガイドはあまり多くないようだ。さんざんwebで探し、ひとつ見つけたが(Birding Adventure Philippines)、一日あたりUS$300と、べらぼうに高い。こっちは経済的に厳しいから、ムリと断ると、三日間でUS$1,100まで下げてきたが、それでもこちらの予算の範囲外だ。仕方がないので、かつて大阪で案内したアメリカ人の知人を頼り、Tim Fisherのメールアドレスを教えてもらった。Tim Fisherのことはかねてから知っていたのだが、かなりの有名人であり、たぶん、スケジュール的にも予算的にも多忙で無理だろうと思っていた。ところが、メールで連絡を取ってみると、意外にも都合がつくという返事だ。さて、では問題のガイド料はいくらかと聞くと、三日間でUS$850でも良いとのこと(本当は当初、一日$300と回答してきた)。これなら十分に払える金額だ。出発10日前にようやくすべての手配が終了。あとは、仕事を無事に終えるのを待つのみ。


 2. フィリピンの野鳥 

 Tim Fisherとのやり取りの結果、今回の探鳥はマニラからあまり遠くないMt. Makilingという山に行くことになった。Timからもらった野鳥のリストを参照に図鑑をめくり、今回のターゲットをBarred Rail(ムナオビクイナ), Philippine Falconet (フィリピンヒメハヤブサ), Black-naped Fruit-Dove(カルカヤバト), Philippine Trogon (バラムネキヌバネドリ), Indigo-banded Kingfisher(アオオビカワセミ), Spotted Wood-Kingfisher (シラボシショウビン), Red-bellied Pitta(アカハラヤイロチョウ), Rufous Paradise-Flycatcher (アカサンコウチョウ)に絞り込む。Timの話からすると、Black-naped Fruit-Dove, Indigo-banded Kingfisher, Spotted Wood-Kingfisher, Red-bellied Pittaなどはかなりの可能性で見られそうだ。 

 3. 5月20日 

 Timが約束した集合時間は5:30。前日までの仕事がたたり、早起きは本当につらい。まだ外は薄暗いが、時間どおりにTimは到着。思っていたよりも、良い年のオヤジで、60歳近いだろうか。(あとで聞いたら、62歳とのことだった)。日産のX-Trailに荷物を詰め込み、いざ出発。

TimはBirds of the Philippinesという図鑑の著者の一人でもあり、フィリピンでは有名なガイドの一人だが、思っていたよりも高齢だった。年配のガイドが悪いわけではないが、やっぱり若いガイド方が熱心で集中力も持続するので、個人的には若いガイドの方が好みである。Timは頭のてっぺんが少し薄くなっており、立派な眉毛で、少しオーストラリアの前首相のジョン・ハワードに似ている。

Timはもう一人、Jimmyという45歳になるというローカルの手伝いを連れてきていた。Jimmyはおとなしく、英語もあまりできないため、ほとんどコミュニケーションが取れなかったが、目がとても良く、20, 30m先にいる鳥も望遠鏡によく入れてくれた。

Timに目的地のMt. Makilingのことをいろいろ聞いていたら、早速、高速の入り口を逆方向に入ってしまった。「話に夢中になっていたら、逆方向に入っちゃったよ」って、オイオイ、そんなボケをかますか、普通?すぐに出られたから良かったものの、先行きがやや不安になった。

途中のガソリンスタンドでガソリンを満タンにし、マクドナルドで朝ごはん。「時間がもったいないから」と、ソーセージマフィンを買い込んだら、さっさと車を動かし始めた。アングロサクソン系の食への執着心の浅さは知っていたので、やや先のことが思いやられた。

目的地のMt. Makilingはマニラ市街から南に50キロほどのロス・バニョスという街のそばにある。途中までは高速なので、道が空いていれば1時間ほどの道のりだとか。道路は空いているものの、途中からは高速道路の4車線化が進み、あまりスピードは上がらない。おまけに、ジプニー(ジープの後ろに座席のついた乗合バスのようなもの)がノロノロ走るのをよけながらだから、結構時間がかかる。それでも、目的地のMt. Makilingの入り口のフィリピン大学には6時半に到着。広大なキャンパスを車で森林学部のある方へ移動し、車を止めて、いざ、歩き始める。

外はもう明るく、車を出ると、強い日差しと湿気にたちまち、じっとりと汗をかく。やっぱり、ここは東南アジアのジャングルだ。車を止めた場所のすぐ裏には枯れた大木があり、早速最初の鳥、Coppersmith Barbet(ムネアカゴシキドリ)のペアにお目にかかる。東南アジアではおなじみの鳥だ。Barbetとともに、なんだか見慣れない、ゴジュウカラみたいな変な鳥が出てきた。こげ茶色と白のストライプ模様がなかなかおしゃれな鳥だ。Stripe-headed Rhabdornis(キバシリモドキ)という、フィリピン固有種である。もっと見るのが難しいと思っていたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。Rhabdornisの仲間はフィリピンに固有のグループで、世界中でフィリピンに3種類がいるだけである。かつては日本にもいるキバシリに近い仲間と思われていたようだが、現在では独立したグループとして扱われている。キバシリやゴジュウカラのように、木の幹に縦にとまることはせず、木の高層部で枝に水平に止まる。

Mt. Makilingはフィリピン大学のキャンパスの裏から登山道が伸びており、かつては舗装路が通っていたらしいが、今は荒れた道がその名残をわずかにとどめている。登山道の入り口の両側には、マホガニーの立派な木が見える。案内板によると、どうやらあとで植樹されたものであるらしい。50mはあろうかという木々は原生林と言われても信じてしまいそうだ。歩き始めてしばらくして、「ピーッ」という鋭い声が時々聞こえてきた。Timいわく、「Striped Kingfisher(シラボシショウビン)なんだそうだ。シラボシショウビンのオスは、ヒスイ色の眉とほおヒゲに、オレンジ色の顔が個性的な、スズメよりも一回り大きい、森林性のカワセミである。フィリピンの北部にしか住んでおらず、今回の旅行で最も見たかった鳥の一つである。Timは何回かテープを回したが、残念ながらこのときはうっそうとした森から姿を見せてくれなかった。

Spotted Wood Kingfisherの声を聞いた場所から少し歩いたところで、なんだか前方から大きなものが飛んできて止まった。バンケンモドキの仲間かと思って双眼鏡をのぞいたら、Luzon Hornbill(ルソンカオグロサイチョウ)だった。50センチちょっとだろうか、案外小さい。最初の出会いがあっけなかったので、普通の鳥なのかと思ったら、その後まったく見なかった。

Mt. Makilingのトレイルは普通の未舗装路よりも、一度舗装されて、舗装がはげたせいもあって、かえって歩きにくい。ごろごろと転がる石に足元を気をつけながら、おぼつかない足元で少しずつ登っていく。時間はまださほど遅くないのに、鳥の出が悪いことに気がつく。Timに、「鳥が少ないね」というと、「フィリピンでもルゾン島は最も鳥が見づらい島なんだよ」とのこと。同じ東南アジアのジャングルのマレーシアの半島部、ボルネオ島、タイの南部などと比較しても、ずっと鳥の影も声も少ない。おまけに樹高だけは高く、20m, 30m上の木の枝にとまる豆粒のようなタイヨウチョウやハナドリたちに頭を抱えながら、ゆっくりと歩みを進める。

登り始めてしばらく経った頃、「ウゥー、ウゥー」という唸るようなハトの声が聞こえきた。Timはおもむろにテープを流し始めた。高い木々の隙間から、何か飛んできて、15mくらいの高さの葉陰に止まった。白っぽい顔に黒っぽい胸の帯が目立つ。背面は一様に緑色。Black-chinned Fruit-Dove(カルカヤバト)のオスだ。Mt. Makilingには、他にWhite-eared Brown-Dove(テリアオバト)という樹上性のハト、キンバト、Luzon Bleeding-Heart(ヒムネバト)という地上性のハトがいる。

Timが再び、Spotted Wood Kingfisherの声を聞いたというので、じっくりと待つことにする。Timのテープにしばらく声だけで反応していたが、ようやく、薄暗い森の中から姿をあらわした。オレンジの顔にヒスイ色の眉斑とひげがなんとも個性的だ。高さは20mくらいあるだろうか、森の中層部の横枝に止まり、時々特徴のある声で「ピューッ」と鳴く。さえずりと思われる「ピュー、ピュー、ピュー、ピピッ、ピピッ、ピピッ・・・」という声は東南アジアに生息するBanded Kingfisher(カザリショウビン)にちょっと似ており、また、「ケケッ、ケケッ」という警戒声も時々出すが、こちらはナンヨウショウビンのようだ。Spotted Wood Kingfisherはテープによく反応し、このあとも何回かテープを流したが、そのたびに比較的よく反応した。

最も見たかった鳥の一つが見られ、少し気分が良くなったが、その後は気温も上がり、ハイキングに来る人も増えたためか、ただでさえ鳥が少ないのに、まるでトレッキングのようになってしまった。寝不足の体には、ジャングルの蒸し風呂は不快感この上もなく、ただ黙々と三人で歩く。足場も悪く、Timの足元はおぼつかず、何度もこけそうになる。大丈夫かなぁ、この人・・・。

Tim曰く、ルゾン島で鳥を見るのは容易ではないという。確かに、樹高は高い上、鳥の密度は低く、おまけに総じて警戒心が強い。何だったら簡単に見られるのと聞いたら、「ルゾン島で簡単に見られる鳥なんていないよ、ヒヨドリくらいかな」とか。マレーシアやタイでは探さなくても簡単に見られたサイホウチョウの仲間を見るのにすらテープを使わなくてはならないなんて、想像もしなかった。

フィリピン大学の苗床の施設があるあたりで、Philippine Trogon(バラムネキヌバネドリ)の声が聞こえてきた。あまり期待していなかっただけに、「よっしゃ!」と気合が入る。聞こえる方向へTimがテープを流すが、あまり反応が芳しくない。2か所から声が聞こえるのに、どうにも姿が見えない。そのうち、15mくらいの高さを影が横切り、声が遠ざかっていった。キヌバネドリの仲間はアジアに10種生息しており、そのうちの7種はこれまでに観察した。ぜひとも見たいところだったが、明日以降に期待しよう。

その後はScale-feathered Malkoha(ウロコバンケンモドキ), Flaming Sunbird(ワキグロタイヨウチョウ), Red-Keeled Flowerpecker(ゴシキハナドリ)などに出会う。Scaly-feathered Malkohaは眼のまわりが赤っぽく裸出しており、白っぽい頭のまわりには黒い斑点がまるで定規のように頭のまわりを覆っている。もともと、バンケンモドキの仲間には変な風貌の鳥が多いのだが、コイツは極めつだ。なんとなく、ウルトラマンを思い出してしまうのは、私が古い世代の人間だからだろうか。Flaming Sunbirdは東南アジアからオーストラリアにかけて広く分布しているOlive-backed Sunbird(キバラタイヨウチョウ)によく似ているが、喉には紫色の光沢があり、胸には赤い斑がある。

午前中いっぱい歩いて、汗だくのまま、いったん山を降り、昼食を取りに大学の外へ。お昼は軽く、マクドナルドで済ます。マクドは土地によって違ったメニューがあるものだが、まさか鶏のから揚げとご飯だけのメニューがあるとは知らなかった。店内は学生でいっぱいで、皆テキストを開いて勉強している。ゴツイねぇちゃんやなぁ、と思っていた人が、店員に何か話しかけると、エラく声が低い。あぁ、あっちの筋の人ね・・・。どういうわけか、東南アジアにはおかまさんが多いのだが、父権社会が東南アジアに多いことが一因と言われている。タイの場合、家事も仕事もこなす母親を見て育った男の子が母親のようになりたくて、その道にはしることが多いのだとか。基本的に男性が怠け者で女性がよく働くのは東南アジアのどこの国でも共通だから、フィリピンやタイだけではなく、他の東南アジアの国でも市民権を得ていないだけで、結構いらっしゃるに違いない。

午後からはフィリピン大学構内の植物園へ。鬱蒼とした高い木々が茂り、まるで、Mt. Makilingの一部のよう。午後の強い日差しを避けながら、鳥影を探すが、2時間歩きまわって、White-browed Shama(マミジロシキチョウ)を見かけた程度。植物園の中でWhite-browed Shamaを見つけたとき、後ろに少し下がろうとしたTimがついにこけた。Jimmyと二人で助け起こすが、この人、本当に大丈夫かぁ?

植物園を出た後は大学構内の橋の上でIndigo Banded Kingfisher(アオオビカワセミ)を探すが、Striated Swallow(オオコシアカツバメ)が飛ぶ程度で、見つからない。大学の構内で望遠鏡と双眼鏡を並べているわれわれはさぞかし変わった存在なのだろう。通る人々から奇異な目で見られる。

4時を過ぎてから、今度は大学の近くにある草地へ行く。ミフウズラの仲間のSpotted Button-Quail(ルソンミフウズラ)やBarred Rail(ムナオビクイナ)などが見られる可能性があるという。日差しは依然強く、一日ですっかり日焼けしてしまった。木陰に座ってのんびりと待っていると、確かに、時々、草の影から鳥が見え隠れする。双眼鏡で見てみると、Spotted Button-Quailだったり、Barred Button-Quailだったり。草原の向こうに遠くMt. Makilingが見え、電線の上では、Blue-tailed Bee-eater(ハリオハチクイ)がのんびりとくつろぎ、なんとも穏やかな風景だ。

5時半に最後の探鳥を終え、大学内の宿舎へチェックインし、その後、夕食を済ませに再び大学の外まで。一日中歩き回ったせいか、とにかく、のどが渇いた。「なんといっても、ビールだな!」とTimと意見が一致。最初にTimが連れて行ってくれた店では、開店直後でビールが冷えていないとのこと。仕方がないので、隣のタイ料理店へ。Timは開口一番、「ビールは冷えているか!隣の店はぬるいビールがないと不届きなことを言ったから、こっちに来たんだ」。わがままなヘンなガイジンが入ってきたと思っているやろうなぁ。

Timにオーダーを任せていると、グリーンカレーに、トム・カー・ガイ(ココナッツミルクと鶏肉のスープ)、レッドカレーと汁物ばかりオーダーし始める。オッサン、タイ料理知らんのね・・・。仕方がないので、揚げ物を少し追加でオーダーする。

フィリピンまで来て、なぜかタイ料理を食べながら、二人の酔っぱらったガイジンが顔を真っ赤にしながら、鳥談義に花を咲かせ、初日の夜は更けていった。

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